勘違いな設計者達

建築を知らない人が知ったかぶりをして描くとやってしまう誤り

1.南面に大きな窓を付ければ良いと信じている

  建築の図面は北を上として書くのが基本ですが、その向きで書いた時に、敷地条件を
  無視して、とにかく南側から採光を取ろうとする。

  これは「南面にこれだけの大きな窓を付けました」と建主への営業トークにしたい為
  ですが、実際には、最低でも敷地の南側の空きは2M近くないと1階の南面の窓には
  日当たりなど期待出来ません。これを知らない設計者は2階のバルコニーの先端から
  隣地まで1Mも取れない様な図面で、奥まった、全く日の当たらない1階の南面に大
  きな窓を付けてしまう。日が当たるどころか寒いです。窓は壁と比べて数倍、熱損失
  が大きいのですから、日当たりの悪い面に窓を付けたら冬は最悪です。

  例えば、東面に道路があれば、東側に少し大きめの窓を付けて採光を取る事を考えて
  も良いのです。当然、東側には朝日が強く当たり、夕方は日当たりが悪くなります。
  その東側にはどんな部屋を配置したら良いのか、また、夕方日当たりが良くなる西側
  にはどんな部屋が良いのか?そんな事を考える必要があります。あまりに条件の厳し
  い敷地においては、居間を2階に配置して天窓から採光を取る事も考えられます。

  あと、敷地というのは、まっすぐなことはほとんどなくて、北側を上として書いた
  図面でも、真北が上とは限らないんです。大抵、北マークは右上か左上を向いている
  はずです。その辺りも注意しないといけません。

2.通風条件が悪すぎる

  これもよく見ます。通風を全く考えていない平面図がよくあります。
  これは、設計者の責任では無いかもしれません。おそらく、提案して来た業者がそれ
  しか作れないのかもしれません。壁構造(後で説明します)専門のメーカーに多いです。

  どの部屋でも窓は2つ、出来れば部屋の対角線上に離した形で設置しなければ、通風
  は悪くなります。また、出来るだけ廊下の端と端、階段の端と端も風が抜ける様な
  計画をする必要があります。こうしておかないと、廊下に空気がこもる原因にもなり
  ますし、年中エアコンのお世話にならないと住めない住宅となってしまいます。

  こんな基本的な事がなっていない家は多いのですよ。廊下を風が通らないので、トイ
  レの入口の扉を開け放しておいて、トイレの小窓から換気している、なんてとんでも
  ない話を聞いたりします。

  高気密・高断熱住宅、という言葉があって、聞こえの良さから一般の方に人気です。
  エコ住宅・健康住宅なんていうのも流行りですよね。ただ、本当にそんな必要がある
  のでしょうか?

  高気密・高断熱の家、どういう家か考えてみて下さい。家中に綺麗な空気を流して、
  最後に排気する時には排気の熱を回収して、吸気と一緒に取り入れる。とても聞こえ
  は良いですが、排気する時の熱すらも惜しんで回収するという事は、一日中、窓を
  空けないで生活する必要がある、という事ではありませんか?

  例えば、寒冷地、豪雪地等で「窓が開けられない」地域では、そういった仕様にする
  必要があるでしょう。暖房コストを考えてもそうするべきです。しかし、関東以南の
  場所ではきちんと断熱対策をすれば、それほど大袈裟な仕様にしなくても、冬、暖房
  の熱はそれほど逃げませんし、通風計画をした住宅であれば、夏もエアコンに頼らな
  くては過ごせない期間を短く出来ます。夏の始まりから窓を締切って高気密・高断熱
  の住宅に住むよりよほど快適だと思うのですが。(建築費も安く上がりますし。)

  また、建材による健康被害からエコ住宅等への期待が高まっている訳ですが、通気の
  悪い家で窓を締切っていれば、建材が有害物質を含んでいた場合に体に悪いのは当た
  り前です。中途半端なエコ住宅であれば、「現時点で」安全な新建材を多用している
  事でしょう。その様な住宅で通気の悪い設計をする位なら、もしかしたら、ホルムア
  ルデヒドをたくさん出す建材を多用した隙間だらけの家の方が安全かもしれません。

  だって、建材による健康被害なんて、隙間だらけの住宅ばかりの時には無かったんで
  すよ。建物の気密性が高まるに連れて出て来たんです。建材の毒性は薄まったはず
  なのに。

  通風を良く出来ない理由

  前述した「壁構造」についてですが、この構造は思った所に窓を設けるのが難しい
  構造なのです。具体的に言うと、壁式鉄筋コンクリート造、軽量鉄骨系プレハブ、
  2X4住宅がこれに当たります。建物をほとんど壁の力だけで支えます。

  壁で持たせないのが、重量鉄骨造(一部住宅メーカーの言う、肉厚の薄いものを除き
  ます。厚が12mm程度以上あるもので、200角以上の柱を使う建築の事です)で
  す。この構造だと大分自由な位置に窓を設ける事が出来ます。

  一部を壁に持たせるのが、通常の鉄筋コンクリート造と在来木造となります。

  壁式構造では、建物のX方向、Y方向にそれぞれ、法律で定められた量の耐力壁を
  設計しなくてはなりません。しかし、絶対に確保しなければならない開口部、例えば
  玄関、居室に一つずつの窓などを計画してしまうと、その後は思う様に窓が入れられ
  なくなるケースがあります。東京の狭い敷地で計画した際には、ほとんどこの問題に
  直面するはずです。結果として、一戸建なのにトイレや浴室に窓の無い設計図が出来
  上がります。もちろん、廊下に窓を付けるのも後回しです。

3.有名建築家風

  インターネット上でコンペをやっているサイト等に行くと、「建築家に頼みたい」と
  考えられている方がどういう設計案を選択しているか分かって面白いものがあります。

  ここで著しく多いのが、「いかにも建築家が建てました」風の「お宅拝見」ものの番組
  に出てきそうな住宅たち。それを予算2000万円程度で造りたいという事。

  柱と梁が見えていて、四角い箱の様な建物で前面が全部ガラス張り。2階は空中にせり
  出している。

  いいですよ。そういう家を設計しても。

  でも、ちゃんと、そういう家が完成した後、そこに住む人がどんな生活を送るか、説明
  しなくてはいけません。その依頼を受けた人は。

  一般の方が憧れる、そういった住宅は、やはり建築家を名乗る人達も自宅建築の際に、
  挑戦していたります。その様な人達に住み心地を聞いたりもせず、計画を進めるのは
  いささか無謀です。

  天井から床まで、壁一面がガラスのコンクリート打放しの住宅に住まれている建築家の
  方が言っていました。「結露しませんか?」との質問に「いやあ、中も寒いですから。」
  内外の温度差が無ければ、室内が結露する訳ありませんからね。

  つまり、そういう事なのです。

  他の全てを犠牲にしてデザインだけを追求した建築家の住宅であればいざ知らず、一般の
  方が住むのには、その様な住宅は過酷すぎるのです。夏の天窓からは強烈な熱射が来るで
  しょうし、冬の窓は外気と同じ位まで冷え込むでしょう。エアコン等を付けても無駄なの
  だと思います。「冬は中も寒い」というのも当然です。

  窓の断熱などを徹底的に行い、ガラスも高価なものを使い(床から天井までの透明窓ですから
  その特殊ガラスとなれば1枚でも相当な金額になります。)外壁の断熱も徹底的に行う。
  そこまですれば、快適に出来ると思います。しかし、そうなれば、建築費の方が過酷です。
  2000万円で建てられる訳は無いのです。

  そう言った事は聞こえが悪くても、設計者は建主に伝えなくてはいけません。

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